2020/07/07 12:30
青々とした稲穂の広がる平野部から、高くそびえる山に向かって車を走らせる。
上り坂の続く山道に入るちょっと手前の麓に、その小さな神社はある。
鳥居をくぐると、スギやナラの大木に囲まれたひっそりとした静けさがあって、その厳かな静けさによそ者は心が引きしまる思いがする。
この神社には佐渡で一番小さな茅葺屋根の能舞台がある。
地域の氏子さんたちが大切に守り伝えてきたこの神社では、毎年夏に能舞台でお祭りをおこなう。
能の仕舞や地域の民謡、しまいはいつも笑顔あふれる大黒様がたくさんのお菓子を投げる、色とりどりな祭りだ。いつもはひっそりとした神社も、この日ばかりは賑やかだ。
地域の方とお祭りの準備・片付けをご一緒していて、必ず訪れる一大作業がある。
能舞台の雨戸を閉める作業だ。
1面に6枚、それが3面あるから18枚。
本来は上にスライドさせて雨戸を開くだけなのだが、一度外してしまうとどこにはめたらいいのか分からず、重い木の板をパズルのように当て込んでみながらピタリとはまる場所を見つけるまで、試行錯誤を重ねることになる。
コケの生え方、板の色合いを見ながら組み合わせを探して、柱をハンマーで叩いてすき間をつくりながら当て込んでいく。
はじめて出くわしたときは1時間、いや2時間か、かかる作業だった。
山間部の小さな村に若者は少ない。
いや村自体が十数軒のいわゆる高齢化した限界集落だ。
力仕事も村のおじさん達が担う。
雨戸作業でも、若いのはGOKIGENで一緒に訪れた仲間ばかりだ。
もしこれが都会だったらーー。
こんな大変な力仕事は業者に任せて、お母さんたちが隣で準備してくれている懇親会にみんな参加してしまうのではないかと思った。
でもここでは、お金で解決するのではなく、自分たちの力で祭りの準備から片付けまでを全部担っている。
お母さんたちもお弁当をつくって、懇親会の準備をして、おしゃべりしながら作業の終わるのをただ待っている。
自分たちで地域の暮らしをたてること、地域の大事なものを守っていくこと、その矜持を見たように思った。これが自治か。
社会の教科書にあるような単語が、字面ではなくて、それを担う人たちの汗と努力のたまものとして、はじめて実感をともなった。
その後の懇親会であるおじさんに言われた「佐渡の米が美味しいのは、自分たちでつくっているからだよ」。
また別の方に言われた「米は八十八と書く。米づくりには八十八の苦労があるのだよ」。
ふだんお腹すいたーと何気なく食べているお米も、1年かけてじっくりと育てている人がいる。
生産の喜びと大変さと、消費の軽さ。
都市が色んなものを吸収して拡大するブラックホールに見えた。
その地で暮らすこと。
その地で生きること。食べて、飲んで、笑って、遊んで、仕事して。
人間の営みとその喜びを、あなたはどこに見出しますか。
GOKIGEN Nippon 事務局スタッフ 杉山 実優
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名前:杉山実優
所縁のある地域:埼玉県所沢市、東京都中央区、GOKIGENで訪れる各地域
とある人材系会社からとある中央省庁に出向中。
いろんな観点を知って、いろんな観点をつなぎたい。地域も、ビジネスも、政策も、海外も。
でもいつも中心にあるのは人。いろんな人が、どこで、どんなことを見ているのかを知りたい。
企業・大学・官庁の若手を集めて、これからの未来を考える「官民若手イノベーション論ELPIS」を立ち上げて企画・運営中。
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